Chairmans EYE -30CLIMAX展望-

CHAIRMANS EYEとは

30リーグチェアマンの上田ダイゴが

独断と偏見と妄想で

30リーグ2023の見どころや

注目ポイントを紹介するコーナーです

今回は決勝戦【30CLIMAX】

『演劇ユニット衝空観×虹色りきゅーる』を

独自の目線で徹底解説します!!

半年に渡る熱戦が続いた30リーグ2023も残るはあと一試合。火リーグを制した『虹色りきゅーる(以下虹色)』と劇リーグを制した『演劇ユニット衝空観(以下衝空観)』による優勝決勝戦『30CLIMAX』を残すのみとなった。この大一番を迎えるにあたり、両団体のこれまでの戦いを振り返り、今回も勝負の分かれ目となりそうなポイントを自分なりに探ってみようと思う。

CHAIRMANS PREDICT

まずは劇リーグの覇者である衝空観。激戦となった劇リーグを衝空観が制した決め手は(作品内容以外を除けば)なんといってもその集客力である。衝空観の公式戦二試合は今年の30リーグにおける動員一位二位を記録。とりわけ第四節では30リーグ史上最高得票となる94票を獲得し、三団体一勝一敗で並べば確実に優勝出来る状態を作り上げる事に成功した。

もちろん集客力だけで勝てるほど甘くないのが30リーグ。いくら集客力があっても作品内容戦術が拙ければ敵に塩を送る結果にもなりかねないのだが、その辺りも衝空観は実にそつなく戦った印象がある。

開幕前に行った団体紹介アンケートで答えた通り、リーグ戦2試合ではシリアスコメディという振り幅の大きい二作品で勝負した衝空観。初戦の第二節ではシリアスなテイストの再演作品『セミロウ』で挑み、遊劇!浪漫派FAMILIAR(以下FAMI)に 33対63の30票差で敗退してしまうのだが、これはある意味計算通りだったのかもしれない。

30票差と言えば大敗に聞こえるが、第二節は不利先攻での上演。30リーグでは三団体が一勝一敗で並ぶ事を想定して、如何に先攻の試合で善戦しておくかがリーグ優勝カギとなるので、負けたとはいえ新作を温存した上で33票という得票数は十分善戦と言える結果であった。

そして運命の第四節では客ウケの良いコメディ作品『トイレット・カルテット』書き下ろし、さらに集客力のある役者をキャスティングするという盤石の体制で挑み見事に大勝圧倒的な得票数で作り出した『一勝一敗になれば自分たちの優勝』という状況は、第六節を控えたライバルニ団体に大いなる重圧を与えた。その結果、第六節[フキョウワ]FAMIを破って三団体が一勝一敗で並び、衝空観がリーグ優勝を果たす事となった。

続いて火リーグ覇者虹色りきゅーる。今シーズン唯一全勝を果たしてのリーグ優勝団体となった訳だが、その戦いは決してなものではなかった。では大波乱に見舞われた火リーグを制した(作品内容以外の)一番の決め手は何かというと、いわゆる『流れにうまく乗った』からではないかと私は感じた。

虹色の旗揚げ公演であり、30リーグ開幕戦であり、しかも元同門対決という、ある意味30リーグで最も注目の集まった第一節劇団天文座戦。上記の注目ポイント虹色目線で言い換えれば、団体としての初陣であり、不利先攻での上演であり、しかも手の内をすべて知られている元所属団体との対決という、かなり厳しい条件下での戦いであった。しかしそれらの不安材料を吹き飛ばす熱演が観客に届き、結果はダブルスコア快勝団体的にも30リーグ的にも最高スタートを切る事に成功した。

この注目の一戦を制した事で一気波に乗った虹色は、劇団天文座脱退によりリーグ優勝決定戦となった第三節D地区勝利。この戦いでは『第一節の勝利の勢いをそのまま持ち込める間隔の短い日程』『優勝決定戦が有利な後攻』という虹色有利の流れが勝敗を分ける大きなポイントとなったのだが、その流れを呼び込んだのは紛れもなく虹色の演劇に対する真摯な姿勢である。

30リーグのリーグ戦が終わってからもシアター・エートーでの本公演関西演劇祭ネクストジェネレーションへ参加で歩みを止めなかった虹色。劇リーグの結果を受けて30CLIMAXでは後攻になった事でも分かる通り、虹色のいい流れはまだ失われていないと見ていいだろう。

CHAIRMANS ANALYZE

この様に結果的にではあるが『戦略』の衝空観対『勢い』の虹色という、真逆の戦いで勝ち上がって来た両雄による対決となった30CLIMAX。試合に向けて発表されたオーダー(作品タイトル・出演者・スタッフ)を見て私が最も面白いと感じたのは、両団体ともリーグ戦では使わなかった戦術を取って来ており、しかもその戦術が両団体で真逆のチョイスとなっている点である。それが『作演の出演』だ。

衝空観の主宰であり作演を担当している銭山伊織は、普段は役者としても活躍しているのだが『作演に集中したい』という理由から、今まで衝空観では役者として出演する事はほぼなく、30リーグでもカメオ的なチョイ役出演のみに止まっていた。しかし30CLIMAXでは一変して役者としてがっつり出演する事を選択したのだ。

その決断の主となる理由を想像するに、やはり衝空観が二人ユニットになった事が大きいのではないだろうか。

実を言うと30リーグ参戦決定時、衝空観は銭山だけの一人ユニットだったのだが、第二節に出演していた亮介が公演終了後に衝空観加入第四節より二人ユニットとして活動しているのだ。しかし二人ユニットの初試合となった第四節では大勝こそしたものの、ゲスト出演者圧倒的な集客力に依る所が大きく、作品内容以前の勝負になってしまったというのが正直印象である。試合としてはベストの結果だが、いち表現者としては決して納得のいく勝利ではなかったであろう。

30リーグ決勝戦という晴れの舞台で衝空観が選んだのは二人芝居。どんな結果になろうとも、今度こそ客演の力を借りる事なく、自分たち二人だけの力で、純度100%の衝空観で挑みたい。そんな想いが読み取れるオーダーだ。

対して虹色はその真逆。虹色全作品作演に加えて、役者としても出演していた主宰広瀬ヒロが、30CLIMAXでは作演のみ出演はしないというチョイスをしたのだ。

意外なチョイスはそれだけではない。リーグ戦二試合をシリーズもの第一話第二話で挑むという大胆な戦法で見事全勝を果たしただけに、当然30CLIMAXにもシリーズもの最新話を持ってくるのかと思いきや、関西演劇祭ネクストジェネレーションにて上演した作品のリメイク作という選択をして来た。しかもその作品のジャンルリーグ戦二試合で披露したファンタジーではなく、恋愛をテーマにした現代劇というではないか。さらに初演では広瀬ヒロが演じた役に、なんと同じ火リーグで鎬を削りあったD地区の役者、わでぃを起用すると言うのだから驚きだ。

大一番で数多くの新しい事にチャレンジするという戦術は、一見すると無謀な大博打にも思える。しかし虹色の戦術を言い換えれば『演出に専念して作品のクオリティを上げる』『役者の等身大の魅力を引き出しやすいジャンルとテーマを選ぶ』『良いと思った役者を使って適材適所のキャスティングをする』という、実に理にかなったものばかりである。

いくら全勝でリーグ優勝を果たしたと言っても虹色は今年旗揚げしたばかり。メンバーの演劇歴も決して長いとはいえない、文字通りの若手団体である。旗揚げから既に4作品を上演するという精力的な活動で着実に経験を積んではいるものの、実力的には多くの面において衝空観に一日の長があることは間違いない。

リーグ優勝に浮かれる事なく、現時点での相手団体との差冷静に受け止め、いま出来得る限り対策でを施して決戦に挑む。この演劇に対する真摯な姿勢がある限り、虹色の『いい流れ』は損なわれることが無いのかもしれない。


CHAIRMANS POINT

己達の力を信じて団体の純度を極限にまで高めた衝空観

作品の質を少しでも上げるために最善の手段を尽くした虹色

方法こそ違うものの、試合に向けて現時点での団体100%の力を発揮するための選択をした事は間違いない。

まさに切磋琢磨という言葉がぴたりと当てはまる熱戦が続いた今年の30リーグ。リーグ戦でしのぎを削り合った3団体のためにも締めくくりに相応しい決勝戦を期待したい。


上田ダイゴ(30リーグチェアマン)


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